1一
虚弱な兄のために── 「おれが兄ちゃんの犬になる」 それから、おれの名前は“わんじろう”になった。 体が弱く、幼い頃から臥せってばかりいる一。 そんな一を慕う弟の懸次郎は、兄を慰めようと「犬になる」と、申し出る。 それから数年、兄弟のごっこ遊びは続いていた。 一が父に道ならざる想いを抱いていることも、それを諦めながらも未だ胸に秘めていることも、懸次郎は犬の“わん”として、ずっと見てきた。 ただ一の傍にいたくて、一を幸せにしたかったから。だけど──。
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